インターンシップのこれからの目標
研究を行なう組織においては、徹底的な思想の自由や批判精神が必要であるが、企業組織においても、こうした価値の一部でも内部化されれば、前章でみたような不祥事は生起しないであろう。
組織に関する倫理学を体系的に論ずるのは本書の目的ではないが、明白に非倫理的と判断される組織内の行動はいくつかある。
たとえば組織を私物化する行動がその1つである。
自由とも個人の尊重とも両立しえない。
たとえ組織の長といえども、今日の大組織において1人だけで重要な意思決定のすべてを行なうことは、公式的な制度の下ではできないであろう。
重要なポジションに息のかかった者を配置して、重要な意思決定を自分に有利にする工作は可能となる場合がある。
その場合は形式的には多数者による決定でも、実質的には独裁者ないしは少数者による意思決定にほかならない。
(完全な独裁者は現代の社会には存在しえない。
必ずそれを取り巻く個人がいる。
)同様にインフォーマル・グループの存在も非倫理的である。
非倫理的だけでなく非生産的でもある。
会議などで、他者の発言を遮ったり押さえ付けたりしようとすること、他者を不利にするために虚偽の発言をすることなども明らかに非倫理的である。
これらは個人の尊重と明らかに矛盾する。
これらの簡単な倫理が遵守されただけで、組織は非常に変わる。
全成員が生き生きとしてくるであろう。
特に日本の組織の倫理を問題とするときには、「傍観者」の問題を避けて通ることはできない。
日本の組織には、不正が行なわれていることを知りながら傍観している者が多数存在する(他国に存在しないといっているわけではない)。
総務庁『世界青少年意識調査』によると、社会に対して不満を持ったときの青少年の態度として、積極的な行動をとる者の割合は、アメリカが55.1パーセントであるのに対し日本は24.1パーセントであった。
ここにも日本人の態度があらわれている。
日本人には、不正をみても戦おうとしない者が相対的に多い。
誰も反対しなかったために解決困難な事態に陥ったという事例が、日本には多数存在する。
傍観することはその不正を是認することを意味する。
不正に間接的に加担していることになる。
一般的な「常識」は、雇われている者であるから傍観するのも仕方がない(前章で触れた不正を行なった者も雇われていた者である)、あるいは昇進を考えたら傍観せざるをえないという考え方であろう。
ながら、このように考えているかぎり、組織はよくならないし、そもそも組織の改革などを口にすることができない。
このような考えを抱かせない文化が、質の高い文化と呼べるものであろう。
組織忠誠心を持つがゆえに多数に反対する、ということはいくらでもありうる。
前章の不祥事は傍観者によっても促進された。
傍観者が存在する理由は2つある。
1つは個人的な損得である。
他者の非倫理的行動が自己の利益と直接的に関係しないときは、それを指摘しても個人的には何の得にもならない。
かえって嫌がらせを受けるかもしれない。
したがって黙っていることになる。
「貸し」になることもある。
傍観は個人的には合理的であるが、そこには陰湿性が潜在する。
もう1つは、組織を改善する上でもっと重要な理由で次の議論とも関連するが、組織が倫理を明確にしていないことである。
倫理が暖昧であれば、非倫理的と考えられる行動をみても論理的に指摘しにくい。
倫理が明確であれば、自信を持ってそれを指摘することができよう。
部下が上司の不正を指摘することもできる。
組織の倫理が明確であれば、非倫理的な行動自体も少なくなるであろう。
ここまでは日本的システムの倫理的側面を考察してきたが、ここで制度的側面に注意を向けてみよう。
倫理と制度とは相互に補完するように機能する。
いずれが欠けても、組織はうまく機能しない。
日本的なシステムにおいて今最も必要な制度上の改革は、第一に基本的な理念や規則を明確にすることである。
組織の目標や目的を表す経営理念を内外に明らかにする必要がある。
基本的な規則も理念を明確にする作用を持つ。
経営理念では組織的価値の役割が十分に明らかにされなければならない。
大部分の個人がそれに関して迷いを持っているからである。
理念や規則は体系的であるとともに、特に問題となりやすい側面については十分に具体的でなければならない。
このようなことが行なわれれば、組織の成員はどのように行動することが正しいのかを知ることになり、理念に沿った自分の行動に自信を持つことができる。
また、他の成員の行動も予測しやすくなる。
他者の行動の予測可能性を高めるというこの効果は、制度のきわめて重要な機能の1つである。
組織にとって好ましい行動を誘発する。
もちろん理念は組織の成員に十分浸透し、内部化されなければならない。
すなわち成員が組織忠誠心を持つようにならなければならない(組織忠誠心は大勢順応とは異なり、組織の理念を内部化することである)。
そうなるためには、個人倫理やリーダーシップも必要である。
優れた理念や規則は個人の価値観を変える作用を持つ。
この作用は第二章でみた説得の効果と同じである。
また、個人がとるべき行動に迷ったとき、指針を与えてくれるであろう。
また組織の理念が明らかにされることによって、組織の外部の個人はその組織に対するイメージを形成することができる。
望ましからざる経営理念を明示する企業はないであろうから、通常はよいイメージを持つことになろう。
いったん明示された価値を破ることは非常に難しいからである。
しかもこの場合は明文化されているので、話合い以上の効果が期待できよう。
経営理念の明確化はコミットメント効果を持つ。
組織はその理念を明らかにすることによって自分を縛るように思われるが、それによってかえって信頼を獲得するという利益が得られよう。
経営理念が明確であることは今日では特に重要である。
明確でない理念は混乱をもたらす。
たとえば、単純に「和は社業向上の基礎」という表現によって、理念が表されたと仮定してみよう。
ここまでの議論を考慮に入れれば、きわめて不明確な理念であることがわかる。
インフォーマル・グループで共謀することも「和」、多数に盲目的に従うことも「和」であると、実際には感ぜられることがいくらでもありうるからである。
(聖徳太子の和の精神では、私利の抑制や、全員が参加して諾和の気分で行なわれる議論が重視されていることに注意する必要がある。
)どのような方法で、どのような価値や目的を達成するために、個人間の協力を要求するかが明確にされずに「和」のみが強調されると、前章でふた問題が解決されない。
組織の理念の例として筆者の所属する大学の場合をみてみよう(『H大学・現状と課題』1994年)。
当大学では「大勢順応型の人間ではなく、自らの思想・信条を持ち、その行為に自ら責任を覚え、独立して思考し、自主的に判断する『批判精神』を備えた人間を育てようと」して戦後の理念と目標が立てられた。
今日ではさらに「国際通用力をもった『批判精神』の育成」や「自然的な生態系と調和しうる社会がいかなるものであるのかを究明すること」が目標として加えられている。
日本の組織の伝統に欠けている制度的側面に、桔抗力やチェック機構の利用がある。
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